英語の文法を考えていると、意味はすぐに理解できるのに、文の構造を詳しく見ると疑問が生じることがあります。
例えば、次の英文です。
This planetarium show is suitable for beginners to see.
「このプラネタリウムの上映は、初心者が見るのに適している」
天文学に初めて触れる人にも適したプラネタリウムのプログラムを紹介するような場面を想像してください。
英文の意味は、それほど難しくありません。
しかし、ここで気になることがあります。
see は通常、目的語を必要とする他動詞なのに、なぜこの文では see の後に目的語がないのでしょうか。
また、for beginners to see という部分は、文法的にどのような構造になっているのでしょうか。
今回は、この英文が成立する仕組みを詳しくたどってみます。
結論:see の目的語に相当するのは This planetarium show
結論から言うと、この文の see は、目的語を取らない自動詞として使われているわけではありません。
see の目的語に相当するものは、文頭の This planetarium show です。
文の構造を分かりやすくするために、不定詞の内部に空所を示してみます。
This planetarium show is suitable for beginners to see ___.
この空所(___)は、see の目的語に相当する位置を表しています。
つまり、文の中には、
Beginners see this planetarium show.
「初心者がこのプラネタリウムの上映を見る」
という意味上の関係が含まれています。
see の目的語を単純に省略しているのではなく、目的語に相当する位置が、主節の主語と結びついているのです。
このような構造は、This book is easy to read. などにも見られます。
1. for beginners to see の構造
まず、次の部分に注目します。
for beginners to see
ここには、for + 名詞句 + to不定詞 という構造があります。
それぞれの働きを整理すると、次のようになります。
- for:不定詞節の意味上の主語を導く
- beginners:see という動作を行う主体
- to see:to不定詞
つまり、beginners は see の目的語ではありません。
see の意味上の主語です。
例えば、次の文を考えてみます。
It is important for beginners to learn the basics.
「初心者が基礎を学ぶことは重要だ」
この文でも、for beginners は、誰が learn するのかを示しています。
今回の英文も同じです。
This planetarium show is suitable for beginners to see.
ここで see という動作を行うのは、beginners です。
ただし、for beginners は主節の主語ではありません。主節の主語は、あくまで This planetarium show です。
この区別が、文全体の構造を理解するうえで重要になります。
2. see の目的語に相当するのは、文頭の主語
元の英文をもう一度見てみましょう。
This planetarium show is suitable for beginners to see.
この文では、主節の主語は This planetarium show です。
一方、for beginners to see の内部には、see の目的語に相当する空所があります。
両者は意味の上で対応しています。
This planetarium show is suitable for beginners to see ___.
この関係を確認するために、次の文と比較してみます。
It is suitable for beginners to see this planetarium show.
「初心者がこのプラネタリウムの上映を見るのは適切だ」
この文では、see の後に this planetarium show が置かれています。
つまり、see の目的語が明示されています。
両者を比較すると、次のようになります。
A. This planetarium show is suitable for beginners to see ___.
B. It is suitable for beginners to see this planetarium show.
Aでは、This planetarium show が主節の主語になっています。
Bでは、this planetarium show が see の目的語になっています。
この2つの文は、基本的に近い内容を表しますが、文法構造も情報の提示の仕方も同一ではありません。
Aはプラネタリウムの上映そのものについて説明しています。
一方、Bは、その上映を初心者が見るという行為について述べています。
このように比較すると、Aの see の後に目的語が現れない理由が見えてきます。
3. tough構文との関係
ここで、今回の英文と関係する文法事項を確認しておきます。
英語には、次のような構文があります。
This book is easy to read.
「この本は読みやすい」
read は通常、目的語を取る他動詞です。
しかし、この文では read の後に目的語がありません。
構造を示すと、次のようになります。
This book is easy to read ___.
read の目的語に相当する空所があり、それが主節の主語 This book と対応しています。
このような構造は、一般に tough構文(tough-construction) と呼ばれます。
tough という名称は、次のような典型例に由来します。
This problem is tough to solve.
「この問題は解くのが難しい」
ここでも、solve の目的語に相当するのは This problem です。
今回の英文を見てみましょう。
This planetarium show is suitable for beginners to see.
この文にも、不定詞節の内部に目的語に相当する空所があり、それが主節の主語と結びつくという、tough構文に特徴的な性質が見られます。
ただし、tough構文の範囲をどこまで広く認めるかについては、文法理論や分析の仕方によって違いがあります。
そのため、ここでは今回の英文を、tough構文と共通する性質を持つ構造として理解しておきます。
重要なのは名称そのものよりも、主節の主語と不定詞節内部の空所との対応関係です。
4. 同じ仕組みを持つ英文
今回の構造は、ほかの英文にも見られます。
科学に関連する例文を使って確認してみましょう。
例文1:科学の入門書
This science book is easy for beginners to read.
「この科学書は初心者にも読みやすい」
read の目的語に相当するのは、This science book です。
This science book is easy for beginners to read ___.
例文2:科学実験
This experiment is difficult for students to perform.
「この実験は学生が行うには難しい」
perform は「実行する」「行う」という意味の他動詞です。
この文では、perform の目的語に相当するのが This experiment です。
This experiment is difficult for students to perform ___.
例文3:観測装置
This telescope is easy for beginners to use.
「この望遠鏡は初心者にも使いやすい」
use の目的語に相当するのは This telescope です。
This telescope is easy for beginners to use ___.
例文4:前置詞の目的語に空所がある場合
This chair is comfortable to sit on.
「この椅子は座り心地がよい」
この例では、sit は自動詞です。
空所があるのは、sit の直接目的語の位置ではなく、前置詞 on の目的語の位置です。
This chair is comfortable to sit on ___.
つまり、今回のような構造では、動詞の目的語だけでなく、前置詞の目的語に相当する位置が空所になることもあります。
5. suitable for beginners と suitable for beginners to see の違い
ここで、suitable と for の関係についても確認しておきます。
次の2つの英文を比較してください。
A. This planetarium show is suitable for beginners.
「このプラネタリウムの上映は初心者に適している」
B. This planetarium show is suitable for beginners to see.
「このプラネタリウムの上映は初心者が見るのに適している」
Aでは、for beginners は、どのような人に適しているかを表しています。
Bでは、for beginners to see という不定詞節が、初心者がその上映を見るという行為を表しています。
つまり、同じ for beginners という語の並びが現れていても、文法的な構造は異なります。
Aの for beginners は、前置詞 for とその目的語 beginners からなる前置詞句です。
一方、Bの for は、不定詞節の意味上の主語 beginners を導く働きをしています。
Bの for beginners to see 全体を、単純に「前置詞 for + beginners」という構造の延長として捉えるのは適切ではありません。
for の後に名詞があるからといって、常に同じ文法構造になるわけではないのです。
6. for seeing に置き換えられるのか
ここでもう一つ疑問が生じます。
for beginners to see の代わりに、for seeing を使うことはできないのでしょうか。
例えば、次のような英文です。
This planetarium show is suitable for seeing.
この文は、今回意図している「このプラネタリウムの上映は初心者が見るのに適している」という意味を自然に表す言い換えにはなりません。
まず、文法構造が異なります。
for seeing は、前置詞 for の後に動名詞 seeing が続く形です。
一方、for beginners to see は、beginners を意味上の主語とする不定詞節です。
さらに、for seeing だけでは、誰が見るのかも明示されません。
ただし、ここで注意したいことがあります。
for の後に動名詞が続くこと自体は、文法的に正しい使い方です。
例えば、次の文は自然です。
This telescope is suitable for viewing the Moon.
「この望遠鏡は月の観測に適している」
ここでは、for viewing the Moon が、望遠鏡の用途を表しています。
つまり、for + 動名詞 という形そのものに問題があるわけではありません。
大切なのは、文全体の構造と、表したい意味に合っているかどうかです。
今回の英文で、初心者がプラネタリウムの上映を見るのに適していることを表すなら、
This planetarium show is suitable for beginners to see.
という表現が適切です。
7. see と watch は置き換えられるのか
最後に、今回の英文に出てきた see について、もう一つ気になる点を挙げておきます。
This planetarium show is suitable for beginners to see.
この see を watch に置き換えると、どうなるのでしょうか。
This planetarium show is suitable for beginners to watch.
こちらも文法的に成立し、自然に使える英文です。
では、両者は完全に同じ意味なのでしょうか。
一般に、see は何かが視界に入ることや、映画・公演などを見に行って鑑賞することを表せます。
一方、watch は、対象に注意を向け、ある程度継続して見ることを表す場合によく使われます。
ただし、実際の使い分けは、見る対象や状況によって変わります。
プラネタリウムの上映は、鑑賞する対象であると同時に、時間とともに映像が展開するものでもあります。
そのため、see と watch のどちらも使えるのです。
この違いについては、別の記事で詳しく考えてみたいと思います。
まとめ
最初の英文に戻りましょう。
This planetarium show is suitable for beginners to see.
この文が文法的に成立する理由は、次のように整理できます。
- see は他動詞として使われている。
- see の目的語に相当する位置には空所がある。
- その空所は、主節の主語 This planetarium show と対応している。
- beginners は see の意味上の主語であり、for によって導かれている。
- この構造は、This book is easy to read. などのtough構文と共通する性質を持っている。
最初は、see の後に目的語がないことが不自然に感じられました。
しかし、文全体の構造を確認すると、目的語に相当するものが、別の位置にあることが分かります。
他動詞の直後に目的語が見当たらないからといって、その英文が誤っているとは限りません。
動詞が必要とする要素が、文のほかの部分とどのように結びついているのか。
そこまで考えることで、英文の仕組みをより深く理解できるのだと思います。

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